2012年3月27日火曜日

どうしてなおせないんだろう

と、ふがいなく思うことがあります。
写真のフレンチブルはキャサリン、まだ私たちがであった時は彼女は1歳半でした。
足首のところが腫れてそれが治らなくて大学病院に来たキャサリンは、1ヶ月後の診断では関節炎、3ヶ月後に悪化して再来院した時には骨肉腫、の診断でした。

私たちはなんとかしてキャサリンを助けようとしました。
でも診断が遅れた理由も、そのあと断脚したのも、抗がん剤も、悪い巡り合わせばかりで、キャサリンは苦しかったと思います。

どうしてなおせないんだろう。

もちろん骨肉腫は人の医療でもまだまだ治せない病気の一つです。
ただ、キャサリンの場合は病気の進行がひどくて、それは病気の進行の「速さ」はひどいのではなく、病気の進行していく「様」がひどくて。
断脚をして1ヶ月はとても調子の良かったキャサリンでしたが、抗がん剤を始めてまだ数週間しかたってない時に転移が見つかりました。
皮膚転移です。
骨肉腫が離れた場所の皮膚に転移する事は珍しいですが、皮膚の腫瘤からとれた細胞は見間違う事ないほどキャサリンの足からとれた骨肉腫の細胞に似ていました。
そして2週間後には眼の中に転移。虹彩というところです。
そして全身に転移がおこりました。

私たちが治療を始めて7ヶ月後、薬では押さえられなくなった痛みに悲鳴をあげ続けるキャサリンを私たちは眠らせてあげることにしました。
 激痛があるにもかかわらず、大好きだった眉間の間を最期に気持ち良さそうになでさせてくれたのは忘れられません。

安楽死で仕事を終われる獣医は、楽だと思います。かわいそうですけれど。
私の仕事は続きます。

とてもご理解のある方だったので、承諾を得て病理解剖を行います。
最近は解剖の前にAI(Autopsy Imaging 死亡時画像診断)です。。これを手がかりに解剖を進めるのと同時に、後日解剖結果と照らし合わせ画像診断の精度を上げます。
病理解剖。。。もともと病理出身の私ですので、解剖に抵抗はないのですが、さすがに自分の患者だとつらいです。
様々な臓器が出されて計量されていくのを見ながら、何かできることはなかったかを考えてしまいます。
昔は取り出された臓器を全てホルマリン固定しながら解剖を進行していましたが、今は違います。
腫瘍細胞のみを様々な場所から取り出し、細胞を生かしたままで保管します。。。つまり腫瘍細胞を培養したり、DNAを調べたりするためです。
骨肉腫は転移をする癌としてよく知られていますが、今その転移するシステムの解明が重要視されています。
キャサリンの腫瘍細胞は培養され、転移するのに何が必要なのか、何があったらダメなのかを研究されていきます。
空っぽになってしまったキャサリンを元のからだに戻すのは、外科の人の仕事です。眠ってるように見えるように仕上げます。


今日、全ての結果が出そろって(実は数週間前にはでてましたが)やっと私も飼い主さんにご報告のお手紙を書くことができました。
ご報告というか、お礼です。

キャサリンの一部だったものは、そのからだを蝕んだがん細胞とともに、これから生まれてくる犬やもしかしたら人間の命を助けるために役立たせていただく事となりました。

でも、今、私は治したいんです。
自分の非力を感じます。

0 件のコメント:

コメントを投稿